「最近、散歩の途中で立ち止まるようになった」
「ソファに飛び乗らなくなった」
——愛犬のそんな変化を、「年のせいかな」で片づけていませんか。
犬の関節の不調は、加齢による自然な衰えと見分けがつきにくく、気づいたときには進行しているケースが少なくありません。特に気温が下がる秋から冬にかけては、関節の痛みが出やすくなる時期です。関節の痛みは放置しても自然に治ることはなく、動かなくなる→筋肉が落ちる→さらに関節に負担がかかる、という悪循環を招きます。
この記事では、犬の関節に起こるトラブルについて、飼い主さまが見逃しやすい初期のサイン、代表的な病気、なりやすい犬種、検査・治療、自宅でできるケアまで分かりやすく解説します。
まずはチェック|この行動、痛みのサインかもしれません
次の項目に当てはまるものはありませんか。
- □立ち上がるのがつらそうに見える
- □足を引きずったり、腰を振って歩いている
- □階段やソファ、ベッドなど上り下りを嫌がるようになった
- □歩く速度が遅くなったり、座り込んだり、帰りたがる
- □家の中や外であまり動かなくなった
- □元気がなくなったように見える
1つでも当てはまれば「変形性関節症」かもしれません。
これらはすべて「歳のせい」に見えてしまう変化ですが、その正体が関節の痛みであることは非常によくあります。犬は本能的に痛みを隠すため、飼い主さまが気づいた時点ですでに我慢を続けている場合も少なくありません。
犬の関節はどのような構造をしているのか
関節とは、骨と骨のつなぎ目のことです。関節があるおかげで、犬は歩く・走る・ジャンプするといった動作ができます。
骨と骨が直接ぶつかり合わないよう、接合面は関節軟骨というなめらかな組織で覆われ、関節全体は関節包という袋に包まれています。袋の中は関節液(滑液)で満たされ、潤滑油とクッションの役割を果たしています。
年齢とともにこの軟骨は少しずつ減少していきます。軟骨が減少すると衝撃を吸収する働きが低下し、骨に直接負担がかかって、関節面のざらつきや骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨のトゲができ、炎症と痛みが生じます。これが「関節炎」と呼ばれる状態です。
犬でトラブルが起こりやすいのは、前肢の手根関節(手首)・肘関節・肩関節、後肢の股関節・膝関節・足根関節(かかと)です。
ポイント:関節軟骨には血管や神経がほとんどなく、一度減少すると元通りに再生するのは困難です。だからこそ「進行させない」ケアが重要になります。
症状をもう少し詳しく|場面別に見る関節の痛みのサイン
散歩・歩き方の変化
- 歩くペースが遅くなった、途中で立ち止まる・座り込む
- 散歩に行きたがらない、すぐ帰りたがる
- 足を引きずる、かばうように歩く(跛行)
- 腰を左右に振るような歩き方をする
- 後ろ足をそろえてウサギ跳びのように走る
家の中での変化
- 寝起きに立ち上がるまで時間がかかる、動き始めがぎこちない
- ソファやベッドに飛び乗らなくなった
- 階段の昇り降りを嫌がる(特に「下り」を嫌がる)
- 座り方が崩れる(後ろ足を横に投げ出す「お姉さん座り」)
- 帰宅時に飛びついて出迎えなくなった
体・しぐさの変化
- 特定の足や関節をなめ続ける、噛む
- 触られるのを嫌がる、触ると警戒する・唸る
- 関節が腫れている、熱をもっている
- 寒い日や雨の日に、いつもより機嫌が悪い
- 寝ている時間が増えた、食欲が落ちた気がする
寝起きだけぎこちなく、しばらく歩くと普通に戻る——これは初期の関節炎で非常によく見られるパターンです。「動いたら治った」ではなく「痛みのサイン」と捉えてください。
犬の関節トラブルで多い病気
変形性関節症(骨関節炎)
犬の関節疾患のなかで最も一般的です。加齢や体重負荷によって関節軟骨がすり減り、関節がなめらかに動かなくなって炎症が起きた状態を指します。慢性・進行性で、完治させることは難しい病気ですが、早期に対応すれば痛みを抑え、動ける状態を長く保つことが可能です。高齢犬に多い一方で、後述する膝蓋骨脱臼や股関節形成不全が引き金となり、若い犬に発症することもあります。
膝蓋骨脱臼(パテラ)
膝のお皿(膝蓋骨)が正常な位置から外れてしまう病気で、小型犬に非常に多いのが特徴です。トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリアなどでよく見られます。先天的な骨格の問題に加え、滑る床やジャンプの繰り返しが悪化要因となります。軽度では時々スキップのような歩き方をする程度ですが、進行すると常に脚を上げて歩くようになり、将来的な変形性関節症や前十字靭帯断裂の引き金にもなります。
股関節形成不全
股関節のくぼみに大腿骨の頭がうまくはまらず、関節が不安定になる病気です。原因の多くは遺伝的な骨の発育異常ですが、成長期の過剰な栄養や肥満、激しい運動も発症に関与します。大型犬に多く、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパード、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどが代表的です。
前十字靭帯断裂
膝関節を安定させる靭帯が切れてしまうケガです。急に後ろ足を上げて歩かなくなる、というかたちで気づかれることが多く、肥満の犬や膝に負担のかかる動きを繰り返す犬で起こりやすくなります。放置すると膝の変形性関節症が急速に進むため、外科的治療が検討されることの多い疾患です。
免疫介在性関節炎・感染性関節炎
自分の免疫が関節を攻撃してしまうタイプや、細菌感染によって関節に炎症が起きるタイプもあります。複数の関節が同時に痛む・発熱する・元気食欲がなくなるといった全身症状を伴うことがあり、年齢に関係なく発症します。この場合は原因に応じた専門的な治療が必要です。
犬の関節に負担をかける主な原因
①加齢による軟骨のすり減り
年齢とともに軟骨の再生能力は低下します。シニア期(小型犬で7歳前後、大型犬で5〜6歳前後)からはリスクが高まると考えましょう。
②肥満・体重増加
関節への負担は体重に比例する以上に増えます。体重が増えれば立っているだけでも関節にかかるストレスは大きくなり、さらに脂肪組織そのものが炎症を促す物質を出すことも分かっています。体重管理は、関節ケアのなかで最も効果が高く、今日から始められる対策です。
③滑りやすい床・段差のある環境
フローリングは犬にとって非常に滑りやすく、踏ん張るたびに関節へ負担がかかります。ソファやベッドからの飛び降り、階段の昇り降りの繰り返しも、関節を確実に消耗させます。
④過度な運動・犬種的な骨格の要因
急な方向転換を伴うボール遊び、長時間のジャンプなどは関節への衝撃が大きくなります。また、生まれつきO脚・X脚気味である、胴長短足であるなど、骨格的に関節が不安定な犬は若いうちから炎症が続き、高齢期に症状が強く出る傾向があります。
関節トラブルに注意したい犬種
| 分類 | 犬種の例 | 注意したい疾患 |
| 小型犬 | トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア | 膝蓋骨脱臼、レッグ・ペルテス病 |
| 胴長犬種 | ミニチュア・ダックスフンド、ウェルシュ・コーギー | 椎間板ヘルニア、腰・関節への負担 |
| 大型犬 | ゴールデン/ラブラドール・レトリーバー、シェパード、バーニーズ、セント・バーナード | 股関節形成不全、肘異形成、変形性関節症 |
| 全犬種共通 | 肥満傾向の犬、高齢犬 | 変形性関節症、前十字靭帯断裂 |
該当する犬種でも必ず発症するわけではありませんが、若いうちからの予防と定期的なチェックが特に有効です。
動物病院での検査と治療
どのような検査をするのか
まず、歩き方(歩様)を観察して動きの悪い関節を特定し、実際に関節に触れて可動域や痛みの程度、腫れや熱感を確認します。そのうえで、
- 尿検査(CⅡNE):軟骨のダメージを早期に評価
- レントゲン検査:関節の変形、骨棘、関節の隙間の状態を確認
- CT・MRI検査:より詳細な骨や靭帯・神経の評価が必要な場合
- 関節液検査:感染や免疫性の炎症が疑われる場合
- 血液検査:全身状態の確認、治療薬選択のための臓器チェック
といった検査を組み合わせて診断します。神経疾患(椎間板ヘルニアなど)との鑑別も重要なポイントです。
内科的治療
痛みと炎症のコントロールが治療の中心になります。消炎鎮痛薬(NSAIDsなど)で痛みを取り除くことで、犬は再び動けるようになり、筋肉量の維持につながります。「薬に頼りたくない」と我慢させることは、かえって関節の状態を悪化させてしまいます。
あわせて、関節を保護する成分を含む療法食やサプリメント、体重が多い場合は減量プログラムを併用します。
外科的治療・リハビリテーション
膝蓋骨脱臼や前十字靭帯断裂、進行した股関節形成不全などでは、外科手術が検討されます。また、手術の有無にかかわらず、リハビリテーション(レーザー治療、マッサージ、可動域運動など)は関節を支える筋肉を維持するうえで有効です。
治療のゴールは「完治」ではなく、痛みなく歩ける時間をできるだけ長く保つこと(QOLの維持)です。
自宅でできる犬の関節ケア・予防法
1.適正体重を維持する
最も重要な対策です。肋骨に軽く触れて骨の感触が分かり、上から見てウエストのくびれがあるかを目安にしましょう。おやつは1日の総カロリーの1割以内に。減量が必要な場合は、自己流で食事量を減らすのではなく、必要な栄養素を保ちながら減らせるよう獣医師にご相談ください。
2.床の滑り対策をする
フローリングにはカーペットやタイルマット、滑り止めコーティングを。犬が過ごす動線(水飲み場、寝床、玄関まで)を優先的にカバーするだけでも効果があります。足裏の被毛と伸びた爪も滑る原因になるため、定期的なお手入れを忘れずに。
3.段差・ジャンプを減らす
ソファやベッドにはスロープやステップを設置し、飛び降りをさせない工夫を。階段には柵を付けるか、抱っこで移動させるのが理想です。
4.適度な運動を毎日続ける
痛いからと動かさないでいると、関節を支える筋肉が落ちて症状が悪化します。短時間の散歩を1日数回に分けるなど、負担の少ない運動を継続しましょう。平坦な土の道や芝生を歩く、水中運動を取り入れるのもおすすめです。急な走り出しや激しいボール遊びは控えめに。
5.体を冷やさない・寝床を整える
気温や気圧が下がると痛みが強くなることがあります。秋から冬にかけては特に注意が必要な時期です。室温を保ち、服やブランケットで保温を。寝床は体圧を分散できる高反発のベッドを選び、硬い床の上で長時間寝かせないようにしましょう。
関節ケアのサプリメント
これまでの関節ケアは、痛みが出てから鎮痛薬で抑えるという流れが一般的でした。しかし近年は、痛みが出る前から関節そのものをサポートする考え方が広がっています。
当院では、院長が監修した人・犬・猫用の関節ケアのサプリメント「乳酸菌Walk(ウォーク)」を販売しております。下記URLより詳細を確認できます。
URL:https://shiwao.shop/items/697996d6874c8919b80e719e
代表的な関節ケア成分
| 成分 | 期待される役割 |
| グルコサミン | 軟骨の構成成分。関節の健康維持をサポート |
| コンドロイチン | 軟骨の弾力性・保水性を保つ働き |
| Ⅱ型コラーゲン | 軟骨をつくる主要なたんぱく質 |
| オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) | 炎症のコントロールをサポート |
| 乳酸菌 | 腸内環境を整え、体の状態を内側からサポート |
- 犬用として使用に問題がないかを確認する
- 体重に応じた給与量が明記されているか
- 甲殻類・鶏肉・大豆など、アレルギーの原因となる原材料が含まれていないか
- 毎日続けられる形状か(チュアブル、粉末、おやつタイプなど)
- 変化を実感するには数週間〜2か月程度の継続が必要とされます
治療中の場合や他の薬を飲んでいる場合は、必ず獣医師にご相談のうえで開始してください。
よくあるご質問(FAQ)
Q.症状が何もなくても検査を受ける意味はありますか?
A.あります。変形性関節症はある程度進行しないと症状が分かりにくく、犬は痛みを隠すため、無症状に見えても軟骨のダメージが始まっていることがあります。今の状態を数値で知っておくことが、その後のケア方針を決める材料になります。
Q.何歳から関節ケアを始めればよいですか?
A.大型犬や関節疾患のリスクが高い犬種では、若いうちからの環境整備と体重管理をおすすめします。それ以外の犬でも、シニア期に入る頃(小型犬7歳、大型犬5〜6歳が目安)から意識していただくとよいでしょう。
Q.痛がっているとき、人間用の痛み止めを飲ませてもいいですか?
A.絶対に与えないでください。人用の解熱鎮痛薬は犬にとって重篤な中毒を起こす危険があります。必ず動物病院で処方を受けてください。
Q.関節炎は治りますか?
A.変形性関節症は完治が難しい病気ですが、痛みの管理と生活環境の改善で進行を緩やかにし、快適に過ごせる期間を大きく延ばすことができます。早期発見ほど効果的です。
Q.散歩は控えたほうがいいですか?
A.完全に休ませるのは逆効果です。強度と時間を調整しながら、無理のない範囲で続けることが筋肉の維持につながります。適切な運動量は症状によって異なるため、診察時にご相談ください。
こんなときは早めに動物病院へ
- 足を上げたまま歩く、明らかに引きずっている
- 立ち上がるのを嫌がる、動きたがらない状態が数日続く
- 関節が腫れている・熱をもっている
- 触ると痛がる、怒る
- 元気や食欲が落ちている、発熱している
「歳のせい」に見える変化の裏に、治療で楽にしてあげられる痛みが隠れていることは珍しくありません。