はじめに|「最近よく水を飲む」は腎臓からのサインかもしれません
「水入れの減りが早い」「トイレの砂の固まりが大きくなった」。こうした変化は、高齢の猫に多い慢性腎臓病の始まりかもしれません。
慢性腎臓病は初期にはほとんど症状が出ず、気づいたときには腎臓の働きが半分以下になっていることもあります。それでも、早く見つけて治療を続ければ、進行をゆるやかにして穏やかな時間を長く過ごせます。
こんな様子はありませんか?
☐水をよく飲む、おしっこの量が増えた
☐食欲にムラがあり、少しずつ痩せてきた
☐吐く回数が増えた、口臭が強くなった
☐毛づやが悪くなった、寝ている時間が増えて元気がない
☐7歳を過ぎてから血液検査を受けていない
一つでも当てはまれば、一度ご相談ください。
監修:ふじわら動物病院 院長 藤原 光宏(獣医師シワ男)。2001年に新座市で開院し、西洋医学と統合医療を組み合わせた診療を行っています。Instagram(フォロワー約10万人)や著書でも情報発信を続けています。
猫の慢性腎臓病(腎不全)とは
慢性腎臓病は、腎臓の働きが数か月〜数年かけて少しずつ失われていく病気です。腎臓は血液をろ過して老廃物をおしっこで出すほか、水分バランスや血圧の調整、赤血球をつくるホルモンの分泌も担っています。
このフィルターが傷むと、老廃物が体にたまり、脱水・貧血・高血圧などを通じて全身にさまざまな不調が現れます。なお「慢性腎不全」は、腎臓の働きが大きく損なわれ、症状が出ている段階を指すことが多い言葉です。
一度壊れた腎臓の組織は元に戻らないため、治療の目標は「治す」ことではなく「進行を遅らせる」ことです。なお、ユリ科植物の誤食や尿路結石による尿の詰まりなどで、数日のうちに急激に悪化する急性腎臓病は命に関わる緊急事態です。おしっこが出ていない場合は、すぐに受診してください。
なぜ猫は慢性腎臓病になりやすいの?
最大の要因は加齢で、15歳以上の猫では3頭に1頭以上がかかっているという報告もあります。また、砂漠で暮らしていた祖先を持つ猫は、もともと水をあまり飲まず、濃いおしっこをつくる体のしくみを持っています。そのぶん腎臓に負担がかかりやすいと考えられています。
さらに近年の研究では、猫は腎臓の小さな傷を修復する力が、人や犬より弱い可能性も指摘されています。
見落としがちなのが歯周病です。歯周病が重い猫ほど慢性腎臓病になりやすいという報告があります。慢性的な炎症や、歯周病菌が血液を通じて全身に広がることが、腎臓の負担になると考えられています。日頃の歯みがきや定期的なお口のチェックは、腎臓を守ることにもつながります。そのほか、尿路結石、腎臓の感染症、高血圧、遺伝的な病気(多発性腎嚢胞など)も原因になります。
猫の慢性腎臓病の症状|初期・中期・末期
| 段階 | 主な症状 |
| 初期 | 水をよく飲む、おしっこの量が増えて色が薄くなる |
| 中期 | 食欲低下、体重減少、嘔吐、口臭、便秘 |
| 末期 | ぐったりして食べない、強い脱水、貧血、尿がほとんど出ない |
腎臓が弱ると、おしっこを濃くする力が落ちて薄いおしっこがたくさん出ます。失った水分を補うため、猫は水をたくさん飲むようになります。中期以降は、体にたまった老廃物が胃や口の粘膜を荒らし、吐き気や食欲不振を起こします。
「たくさん飲んでいるから水分は足りている」と思われがちですが、実際は逆です。おしっこで水分を失い続け、飲んでも追いつかない状態なのです。
ご自宅では、24時間で飲んだ水の量を量ってみてください。ドライフード中心なら、体重1kgあたり1日50ml前後が目安です。100mlを超える場合は受診をおすすめします。
ステージ分類と検査方法
進行度は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の基準で4つのステージに分けます。
| ステージ | クレアチニン(mg/dL) | SDMA(μg/dL) | 様子 |
| 1 | 1.6未満 | 18未満 | 症状はほとんどない |
| 2 | 1.6〜2.8 | 18〜25 | 多飲多尿が出始める |
| 3 | 2.9〜5.0 | 26〜38 | 食欲低下・嘔吐など全身の症状が出る |
| 4 | 5.0を超える | 38を超える | 強い脱水・貧血・尿毒症 |
当院では、血液検査(クレアチニン・SDMA・リン・FGF-23など)、尿検査(尿比重・尿タンパク)、超音波検査、血圧測定を組み合わせ、腎臓の状態を多角的に評価します。腎臓病の猫は高血圧になりやすく、高血圧は腎臓の傷みを進めるうえ、網膜がはがれて急に目が見えなくなることもあります。定期的な血圧の確認が欠かせません。
なかでもSDMAはクレアチニンより早い段階で腎機能の低下をとらえやすく、尿比重はおしっこを濃くする力の低下を初期から反映します。症状がないうちに異常を見つける大切な手がかりです。
猫の慢性腎臓病の標準治療
ステージや症状に合わせて、次の治療を組み合わせます。
- 食事療法:リンやタンパク質を調整した腎臓病用の療法食で、腎臓の負担を減らします。続けた猫は生存期間が延びたという報告もある、治療の柱です
- 点滴治療:脱水を防ぎ、老廃物を出しやすくします。皮下点滴が中心で、状態が悪いときは入院して静脈点滴を行います
- 薬物療法:血圧の薬、尿タンパクを減らす薬、リン吸着剤、吐き気止めなどを使います
- 貧血の治療:赤血球をつくるホルモンを補う注射を行います
- サプリメント:老廃物やリンの吸収を抑えるものなどを、治療の補助として使います
もうひとつの選択肢「統合医療」
当院では、標準治療に漢方・ホモトキシコロジー・オゾン療法を組み合わせる「統合医療」を行っています。標準治療の代わりではなく、一緒に使って体全体を支えるための選択肢です。
| 治療法 | 慢性腎臓病での目的 |
| ホモトキシコロジー | 体にたまった毒素の排出を助け、腎臓の負担をやわらげる |
| 漢方治療 | 体質に合わせて処方し、体の巡りや水分のバランスを整える |
| オゾン療法 | 血流や代謝を整え、高齢猫の体調維持をサポートする |
ホモトキシコロジーは、植物や鉱物などを由来とする製剤で、体にたまった毒素の影響をやわらげ、本来の回復力を引き出すことを目的とした治療です。物質を極めて薄く希釈するホメオパシーとは、考え方の異なる治療法です。
詳細はこちらのURLからご確認ください。
漢方治療は、生薬を組み合わせ、その子の体質や体調に合わせて処方します。病気になる前の「なんとなく調子が悪い」段階(未病)から体を整える考え方を大切にしています。
詳細は、こちらのURLをご確認ください。
オゾン療法は、医療用オゾンを管理された濃度で用いる治療です。おしりから入れる注腸法など、高齢の猫にも比較的負担の少ない方法で行います。
次のような飼い主様からご相談をいただいています。
- 薬の数が増えて、飲ませるのが負担になっている
- 高齢で体力が心配なので、体にやさしい治療を取り入れたい
- 標準治療を続けながら、ほかにもできることを知りたい
効果の現れ方には個体差があるため、メリットとデメリットをご説明したうえで、組み合わせを一緒に決めます。
詳細は、こちらのURLをご確認ください。
ご自宅でできるケア
- 水を家の数か所に置く、ウェットフードを取り入れるなど、水分をとりやすくする
- 療法食は今のフードに少しずつ混ぜ、数週間かけて切り替える
- 食べないときは人肌程度に温めると、香りが立って食べやすくなることがある
- 丸1日以上ほとんど食べない場合は、療法食にこだわらず早めに相談する
- 静かで落ち着ける寝床を用意し、トイレを清潔に保つ
- 歯みがきシートなど、できる範囲でお口のケアを続ける
- 体重・食事量・飲水量を記録し、通院時に持参する
末期の慢性腎臓病と向き合う
末期に近づいても、できることはたくさんあります。治療のゴールを「治すこと」から「穏やかに過ごせること」へ切り替え、苦しさを和らげながら大切な時間を守ります。
余命は見つかった時期や治療への反応で大きく変わります。早期から治療を続け、数年以上元気に過ごす子も珍しくありません。一方、ステージ4で見つかった場合や食欲が戻らない場合は、残された時間が短くなることもあります。
終末期には、大きく分けて3つの方針があります。どれが正解ということはありません。
| 方針 | 内容 |
| 積極的治療 | 入院での静脈点滴などで、1日でも長く生きることを目指す |
| 対症療法 | 吐き気止めや点滴で、今あるつらい症状を和らげる |
| 看取りのケア | 無理な治療を控え、自宅でのふれあいを大切にする |
当院の終末期外来では、ご家族のお考えに合わせて選択をお手伝いし、ご自宅での看取りや飼い主様の心のケアまでサポートしています。看取りのサポートでは、ご自宅での環境づくりや、急に具合が悪くなったときの対応もお伝えします。院長は看取りについての著書『うちのワンコが、ニャンコが、死んじゃったらどうしよう』も出版しています。
よくある質問
Q.慢性腎臓病は治りますか?
失われた腎臓の働きは戻らないため、完治は難しい病気です。ただし、早く治療を始めれば進行を遅らせ、長く穏やかに過ごせます。
Q.漢方やホモトキシコロジーだけで治療できますか?
当院では、療法食や点滴などの標準治療と組み合わせることを基本にしています。
Q.何歳から腎臓の検査を受けるべきですか?
7歳を過ぎたら年1回、10歳を過ぎたら年2回を目安に、血液検査と尿検査を受けることをおすすめします。
Q.療法食はいつから始めればいいですか?
一般的には、ステージ2以上と判断された頃から始めることが多いです。合わない食事は食欲を落とすこともあるため、検査結果を見ながら獣医師と相談して決めましょう。
Q.通院の頻度はどのくらいですか?
初期で食事療法が中心なら、数か月に1回の検査が目安です。点滴が必要になると、通院の回数が増えることがあります。
Q.今の病院に通いながら相談できますか?
はい。セカンドオピニオンとして、これまでの検査結果や処方内容をもとにご相談に応じます。
まとめ
猫の慢性腎臓病は、「水をよく飲む」「おしっこが増える」といった小さな変化から始まります。失われた腎臓の働きは戻りませんが、早く見つけて治療とケアを続ければ、穏やかな時間を長く過ごせます。
気になる様子があるとき、今の治療に迷いがあるときは、お気軽にご相談ください。